認知症理解と適切な支援 県民会館 303号室 関西福祉科学大学 都村尚子 教授 認知症セミナー「認知症理解と適切な支援」を開催。
バリデーションとは、「コミュニケーション法」である。コミュニケーションを通して感情レベルに訴えることである。人間は感情の生き物。単に「喜怒哀楽」のパターンだけではなくて、複雑で細やかな感情がある。それを表出させることができないのが認知症の大きな特徴。人間の感情は死の間際まで残っているのが普通である。その方々の「しんどい、苦しい」などの感情を、私たちが獲得できなくなるだけのこと。興奮するのを抑えるために薬を投与すれば、「興奮しない」というマイナス部分だけに作用するのではなく、「感情」というプラスの部分もシャットダウンさせてしまう。私たちは「お年寄りが怒っても当たり前、泣いても当たり前である」と意識を変えること。特に認知症の方には。そしてそれを私たちが受け入れること。「認知症を生きるということは、とてもつらくて、とても悲しくて、とても苦しいこと」である。それでも生き続けなければならない。それは本人がなりたくてなったのではない。本人は、そういう病気になったことを受け入れられない。バリデーションは、お年寄りの喜怒哀楽が表現でき、プラスの感情に共感していくこと。「苦しいね。悲しいね。」と心から共感すること。でも、口だけではいくらでも言える。共感をいかにお年寄りに示すことができるか。バリデーションは感情に焦点を当てること。「失われていくものに焦点を当てるのではなく、最後まで失われないものに焦点を当てていく」もの。奪われていくことに焦点を当てていくと、介護をする者にとっても、本人にも苦しいものである。最後まで残るものに焦点を当てればコミュニケーションできる。言葉を使えなくなるけれども、言葉を使わないコミュニケーションは最後までできる。そうすると、心の交流は、死の間際まで可能である、バリデーションのなかで最も重要な「カリブレーション」は、表情、呼吸を合わせる、一致させるという必須のテクニックであり、鏡のようにやる。悲しければ、悲しそうに。怒っているときは、怒っているようにやってみる。
「あなたの怒りは私もわかっている。受け入れているよ。」それが共感。一緒に感じること。共感することが「私を」受け入れたことになる。その人に近づこうとしなければダメ。変えようとすれば余計、頑固に動かなくなるけれど、私たちが近づこうとすれば、現実を受け入れることが出来れば、変わる。受容すること。バリデーションの基本テクニックの①オープンクエスチョン②リフレージング③端的な表現④反対のことを想像する⑤レミニシングは、言語的コミュニケーションとなる。レミニシングとは、昔話、回想法のこと。バリデーションの意味は「確認すること」、「検証すること」である。認知症の場合は、その人の生きてきた価値、存在の価値を確認させていただくこと。認知症の人はそれを失って生きている。いつも同じ動作をされている方がいる。それは自分の人生を確認している行動である。それを私たちが、同じ行動をしながら、その人の人生を確認することがバリデーションの求める最後のゴールである。認知症は自分の価値を失い、生きる希望を失っていくことになっていく。今まで担ってきた役割を失い、承認されていた存在価値を失っていくこと。その人たちに、生きていく価値があること、存在の価値があることを我々がどのように伝えていくかがバリデーションの意義である。認知症を生きるというのは、長年かけて得た大事なものを一つひとつ失っていくということ。しかし、失っていくことがわからなくなるのではない。感情はずっと残っているから喪失感がつのっていく。記憶を失い、今どこにいるのか、季節がいつなのか、目の前の人が誰なのかわからなくなる。そんな人たちを現実世界に引き戻そうとするのではなく、何の確証もないのに自分たちの都合で「大丈夫だよ」と励まそうとするのではなく、そっと寄り添って「苦しいね」と暖かいやさしい声をかけることができたら、その苦しみは半分になる。その暖かい手で肩をそっと包み込むことができたら、不安が半分になる。認知症の方を「絶望と嫌悪の最期」から救出し、「今まで、生きててよかった」という思いの中で最期を迎えていただくことを可能にするのは、私たちだけ。バリデーションは「お年寄りを変えない」こと。出来ないこと、失うことが増えていくことに私たちがどれだけ寄り添っていくことができるか、また、意識の変革が果たせるかということにかかっている。自分を見つめる少しの勇気と認知症を生きる人への思いをもって。