ターミナルケア研修「平穏死を見据えたターミナルケアとは」
2016年8月30日
平成28年8月30日(火)に社会福祉法人関寿会特別養護老人ホームはちぶせの里施設長中野穣氏をお招きしてターミナルケア研修を開催しました。
高齢者の死亡の場所は、病院が80%と増加し、自宅が17.4%、特養は3%程度で横ばいです。病院看取りは、北欧では50%程度で、できるだけ自宅で最期を迎えたいと思っている日本人は60%を超えます。2025年問題は多死社会を迎えることを示しています。2030年には年間165万人が亡くなると予測されています。今後の見取りの場所は、2030年には医療機関で90万人、介護施設で9万人、在宅で20万人、その他が47万人と推測されています。その他は、「死に場所」がないということで、これを探さなければならないことになります。
望むターミナルの場の選択は、自己決定です。この世での生をどのようにして終えたいか、どのような生活風景のなかでターミナルを迎えたいかは、自分の人生における最後で最大の選択・自己決定です。倫理的にも大切な最後の場を支えていくのが看取りです。
国際長寿センターの定義では、倫理的に適切な見取りとは、①「無益な延命治療をしないで自然の経過で死にゆく高齢者を見守るケアをすること」②見取りに入る条件や医学的に末期であり治療の無益性が明確で、積極的治療を望まない本人意思・家族の同意・意思決定に際して手続的公正性の確保と社会的コンセンサスがあることとされています。また、同センターは、①インフォームド・コンセントの法理の上での自己決定権②意思能力(認知症という理由だけで意思能力がないと判断してはいけない)③認知症における自律(大切な人々との関係性の中での意思表示)④共有された自己決定(適切な説明、家族などによる代理判断)が意思決定の合意形成であるとしています。
代理判断は延命治療の内容に関する事前指示(アドバンスディレクティブ)を書面に表したもの(リビングウィル)が必要です。事前指示とは、①延命などの治療内容に関すること②代理判断者の指名からなります。書面でない場合、常日頃から本人の意思を確認しておき、「うちの親はこう言っていました。」という確たるものがあること(アドバンスディレクティブ)が必要です。
代理判断者は患者本人の価値観・人生観を考慮し、それと矛盾がない判断を本人に代わってなすこととなります。その判断は「本人にとって最も良いと思われる決定を代理判断者がすること」が最善の利益判断となります。それは医学的事実と患者の価値観を考慮して患者本人の立場で考え、関係者がよく話し合って決めることです(独断は避ける)。最終判断は代理判断者です。医師から「見取りになった」と説明を受けた時には、誘導的にならないようにする必要があります。パターナリズム(父権的保護主義)を排する意味で医療(と福祉)に携わる者は代理判断者となれません。決めるのは家族です。
ローウェンバーグとドロコッフの「倫理原則スクリーン」では、倫理には優先順位があり、「より上位の原則の達成が、より下位の原作の達成に先行する」と謳っています。これは、①生命の保護(命を守る)②平等と不平等(対等に扱われる権利→公正・中立)③自主性と自由(主体性の尊重→自己決定)④最小限の被害(最大の利益)⑤生活の質⑥プライバシーと秘密保持⑦真実性と完全な情報公開(積極的な情報公開)となります。2000年に個人情報保護法ができ、支援が途切れる事態となりましたが、(個人情報を守ることが優先された)今、何を優先すべきか、という順位をつけて判断した行動が求められます。
福祉施設では社会参加として、体調がよければ少しでも離床して人の中で過ごすようにすることができます。これは施設における緩和ケアであり、施設にしかできないことです。また、安楽のための専門的ケアも緩和ケアです。施設利用・デイサービスは家族の休息になります。こういうことが死に行くプロセスの向上です。
しかし、サービス利用時に代理判断者がいないことが課題で、家族・主治医不在でも看取りをするには、家族理解のポイントを整理し、同意書の作成が必要です。
共通理解のポイントとは、①死の兆候が現れてもAEDの使用、心肺蘇生をしない。(家族・主治医に連絡)②何があっても受診・治療しないということではない(緩和ケアは積極的に行う→痛みや苦しみがあり、周囲の者が見るに見かねる場合、感染症等による見取りとは別の理由のことがある場合、誤嚥があって喉の痛みがある場合、死の直接的疾患の治療など)緩和ケアの為の救急車を呼ぶ事は是③看取りをしていて気持ちに変化があればいつでも変更可能④死を迎える具体的プロセスの家族の理解、となります。このことを同意書にて明文化しておきます。主治医の所見があるもので、代理判断者である家族が納得して署名し、主治医の同意を得たもので、これの写しを主治医・ケアマネ等のすべての関係者に配布します。受取書・連絡先なども必要です。口約束は危険です。
いい看取りとは、支える側のQOLも大切な要素です。1人娘が2週間、施設に滞在した例や娘4人が1週間滞在したこともあります。家族は長期に滞在すると気晴らしも必要です。このようなことは介護職員も気を使って疲れるものです。
最後に、ターミネーションカンファレンスで見えてきたことは、「振り返り」によって次の看取りに生かすことですが、大きな目的は、「葛藤」と「達成感」を味わうことにあります。ほとんどの介護者は「あれも出来なかった」「これも出来なかった」と反省ばかりします。これは葛藤であり、「あれが出来た」「これが良かった」と振り返り、整理していくことで心を浄化していくことが大切です。ケアマネやワーカーを楽にしてあげることです。看取りについての法律はありません。みんなで相談し、話し合い、より良い支援を目指していくものです。そして記録に残していき、施設での線引きを明確にし、整理しておくことです。と、まとめのお話をされました。
その後、グループで話し合いを行い、「家族の意向が割れる際は時間を決めて統一してもらう (遠い家族ほど看取りに消極的)。経過報告を記してトラブルにならないようにする。証拠を残すようにする。穏やか死は、命が消えた後、次に託せると思うと支えができると穏やかに旅立てる。」などたくさんの良い意見が出されました。