防災・非常災害対策研修
2016年10月7日
平成28年10月7日(金)、地震・津波・豪雨等の発生から3時間以内の初動対応と題して、(株)福祉リスクマネジメント研究所所長・びわこ学院大学教授 烏野猛 氏を講師にお迎えして「防災・非常災害対策研修」を開催しました。
東日本大地震の場合は、「未曾有・想定外」だったかも知れませんが、今後はそれでは済まされません。そうならないようにリスクヘッジを図っていかなければなりません。
9月9日に厚労省通達「介護保険施設等における利用者の安全確保及び非常災害時の体制整備強化の徹底について」が出されました。事業所は今後一層、体制強化を徹底しなければなりません。
国は8つの具体的項目について非常災害対策計画を策定するように指示しています。
①事業所の立地条件・リスク→何のリスクの場所なのか②災害に関する情報の入手方法→携帯ラジオは意味を為さない、目で見えるものがすべて。逃げる・留まるの判断をどの情報によってジャッジしたのか③災害時の連絡先及び通信手段の確認・確保→携帯電話が繋がらないということが大前提④避難を開始する時期、判断基準→どの段階で避難するのか、避難準備情報が発令された時なのか、指示があった時なのか、などのマニュアルがあるのか。大雨特別警報の情報が入らないときにどうするのか。放送もダメ、ネットもダメとなったらどうするのか⑤避難場所(指定の非難場所、施設内の安全な場所)→訪問系事業所は入所系の事業所に避難させてもらう。入所施設では逃げてはダメ。基本的には「篭城」型(ただ、平屋であればリスキーなこともある。上層階のある建物であれば篭城)⑥避難経路(複数のルートとその所要時間)→真っ暗の中の夜勤の避難はリスクが高い。昼間に「夜間想定」の訓練をしていては意味がない。夜間に訓練したときの利用者の怪我やパニックなどのリスクについて家族に相談すること。夜間に訓練するメリット、デメリットを家族とすり合わせする。⑦避難方法⑧災害時の人員体制、指揮系統(マンパワーの体制)→施設系事業所では強制参集の規定。それでも数人しか集まれないと考えておかなければならない。
この8つの項目は、あくまで初動対応のことで、備蓄はどの程度あるかという長期戦のことではありません。初動は要です。3時間以内に何をしなければならないかとなると、「今あるものすべてで、守り抜く」ことです。行政や消防は何もしてくれないものとして自分たちで3日間耐え抜くことを考えなければなりません。熊本地震は、防災拠点である警察・消防・役所が全部機能しなくなった典型です。誰も助けに来てくれないということを前提に3日間耐え抜くというマニュアルを作る必要があります。
1週間分の食料とノロ・インフルエンザ対応の衛生材料、簡易トイレ、蓄電池をパッケージでセットしておく必要があります。「3日分」のストックという事業所がありますが、その3日分の中には、現場の職員・事務員などのストックが必要です。
マニュアルは災害毎にいりません。地震の時と川が決壊した時のマニュアルは、停電・断水などほぼ同じです。災害別にマニュアルを作成するのは見栄えはいいけれども、誰も見ません。インフラのダメージごとにマニュアルを作るのが一番いいのです。「停電すればどうするのか」「断水すればどうするのか」を考え、「非常用電源は何時間持つのか」「厨房冷蔵冷凍食品の状態」など把握して、まず3時間以内にすべき事をはっきりさせておくことです。
予測できる災害と、そうでない災害にどう備えるのかとなると、地震・噴火・(原発事故)は「予測できない災害」でしょうが、水害・雪害・(津波)は「予測できる災害」です。予測できるのであったなら、なぜ対策できていなかったのか、となります。
マニュアルは、事業所の立地リスク(海→津波、山→土砂崩れ、河→決壊・浸水、街→渋滞・火災)に合わせたものをつくる必要があります。
熊本地震の教訓として、①地震想定地域からするとノーマークの地域、②地域の防災拠点が機能不全、③比較的暖かい時期の事象であったこと→気温が30度を超えた(ペットボトルの水は外にだしておくと半日で腐る)ため、感染症や腐敗が大きなリスクとなります。
「今日の夜勤帯に、大雨特別警報が発令され、その直後、震度6強の地震に襲われたら・・」(一番ヘビーな想定→これが熊本で起こった地震)また、28時間後に「本震」が来たらどうするのか。熊本市では福祉避難所の協定が176施設ありましたが8割が機能しませんでした。だから3日間は自らの施設で耐えられるだけの備蓄が必要となります。
東日本大震災における宮城県石巻市立大川小学校の事例や同県山元町立保育園、東松山市野蒜小学校、茨城県常総市鬼怒川決壊の事例対応などは福祉事業所においても適用されます。「予見できなかった」は、次からは「予見できた」に変わります。特に、予測できる水害・雪害についてはなおさらマニュアルにいかすべきです。
インフラのリスク①「電気」は通電火災→通電後10分間の出火に要注意②「水道」は飲料水と生活用水③「ガス」はプロパンか都市ガスでリスクの違い。湯は、施設では容量の大きい貯湯タンクがあるので手動で操作できる方法を知っておくこと④「通信」は災害用の携帯電話の活用。一法人にたくさんの事業所がある場合はたいへん有効⑤「交通機関」は車での避難非難となるため、大渋滞が引き起こります。特に、川があれば橋周辺でグリッドロック現象(超渋滞現象)が起こります。
BCP(事業継続計画)は12パターンあり、インフラがすべてアウトとなった場合の業務の方法を考えます。①緊急地震速報→揺れが到達するまでの3秒間の処置②情報の発信→地震発生後すぐの行動③情報収集④安否確認⑤屋内退避(原発エリア30km以内の事業所)⑥食事の提供→電気ガス水道がダメな中で1週間分の献立(備蓄品リスト活用)⑦夜間対応⑧帰宅困難者への対応⑨疲労している職員に対する対応→不眠不休での業務で疲労困憊している状況での対応⑩下の階にいる利用者をどのように2階へ上げるのか⑪緊急避難⑫全面緊急事態(原発エリア30km以内の事業所)
「いつ誰が何をどうするのか」①~⑫までを図上訓練していきます。これらは自分の事業所の立地で弱いところを優先して訓練していきます。「大雨特別警報が発令された大雨の際の夜勤時間帯に震度6強の地震が来た」ときに、何が出来て、何が出来ないのかのシミュレーション、もしくは食事に関することから訓練すると入りやすいものです。またこの訓練は、BCPなどの防災に取組みについて、若い職員が多くて防災まで考えられないのか、予算がないのか、建物が古いのかなどのボトルネックの洗い出しをするのも訓練の目的でもあります。
これまで、講師が被災地の調査に入られた経験も交えた貴重な話は、受講された方々に深く届きました。