高齢者・障害者虐待防止セミナー 平成29年8月4日、上本町総合法律事務所弁護士池田直樹氏を講師に招き、「高齢者・障害者虐待防止セミナー」を開催しました。在宅高齢者虐待の例として、母親(高齢者)と同居の息子が母親に虐待。息子45歳、未婚(離婚)無職(離職)、借金まみれ、社会的に居場所がないという状況。このような中年男性の加害虐待例が多い。自宅(閉鎖的空間)での虐待の危険性をはらんでいる。人間の弱さが出てきやすい。特養での虐待の例として、認知症利用者にパンストを頭から被せて変顔しみんなから笑いをもらった。職員のアイデアとして企画実施された。果たして、なぜこのようなアイデアが採用されたのか。このアイデアが職場として議論され、採用されたのか。何に情熱をかけたのか。福祉の生き甲斐として企画したのか。このような発想でしか出てこない職場では虐待が生じても仕方がない。福祉の現場においては職員が利用者を観察する力が問われている。観察することは、その人の特徴を深く把握するための手段である。知る努力が必要。福祉は1対1の関係。利用者の要求を聞き出すことや価値観の理解が出来るはず。となるとパンストを被る企画を制止する言動となるはず。信頼関係の構築を図らなければならない。支援をする側が価値観・目的意識を持って仕事をしているのか問われる。

虐待の背景には福祉の現場で働く者の隠されたストレスがある。長時間労働で、しかも緊張の連続であるためストレスは蓄積する。毎日同じ事の繰り返しをしているだけの仕事であればストレスが高くなり、それが蓄積していき2~4年で燃え尽きてしまう。仕事に充実感や、やり甲斐があれば人生の糧として仕事ができる。

事業所では「強者は職員、弱者が利用者」となりがちであり、そうならないような意識した業務を行うことが虐待に繋がらない背景となる。利用者へのいやがらせにつながっていくと、「言う事をきかないと大変な目に合うぞ」などのように歯止めのきかない虐待が常態化する。そこに第三者的な目で組織としてチェックする機能がいかに働くか。隠しカメラを仕掛けるということではなくて、日頃、互いに職員が考えている事を見ておく必要がある。福祉施設の利用者は「壊れやすい人間」を対象とする仕事であり、思い通り(予定通り)にはかどらない仕事である。とくに新人はそのことが理解できず、コントールできないためストレス性は大きい。じっくり落ち着いて、自分を高めていく(育っていく)まで時間も必要である。

エンパワメントとは「力をつける」こと。障害者は、「昔は守られる人」であり保護の対象であったが、1980年、障害者権利条約、1981年「障害のあるアメリカ人のための法律」(米)が出来た頃から考え方が変っていった。障害者・高齢者の施策を決めるのであれば私たち(当事者)が参加して決めるのは当然のこと。今、そのような動きになったのは、当事者が声を上げるようになったからである。高齢者も声を上げて、高齢者にとって住み良い社会にすべき。介護される高齢者も人として権利の主体として生きることは当然認められる。施設から外出するときも、今まで着ていたおしゃれな服を着て外出する、施設内でも同様の権利がある。入所して髪の毛を短くする例がある。洗髪する側は楽であるとの理由であれば、施設本位でヘアスタイルを決めていることになる。順序としては、その人がしたいヘアスタイルが優先されるべき。毎日、鏡でおかっぱのヘアスタイルを見て「私の人生もこれで終わりだ。誰にもそれを見せたくない。」と思うのであれば生きる意味の一部を奪ったようなもの。

高齢者は、歳を重ねるにつれて思い通りにならない憤りやストレスなどを抱えている。衣食住とは別に生きることの目標をいっしょに考えてくことがエンパワメントを引き出すこととなる。それを見つけて本人が続けていく意欲に繋がれば目の輝きが変わってくる。ある高齢者が意欲もなく施設生活をされていたが、その人は、人に教える仕事をしておられた。それを自慢にしておられた。そのエピソードをある職員が聞きつけ、その老人ホームで他の高齢者に教える事となった。他の方の「すごいですね」の目が、その高齢者に伝わり、輝いていたころの自分を取り戻すきっかけを職員が与えてくれた。

最後に、虐待に繋がらないための家族や地域のあり方などについて受講者から質問があり、講師からは、「人のお世話をすることで感謝されるのが福祉のやり甲斐となる。衣食住の提供だけでなく、そこにはご利用者の生活があり、「今日一日楽しかった、ここにいて良かった」と言って頂けるよう、寄り添うことが福祉のあり様。生活するということは、毎日のいろいろなことの繰り返しである。利用者が「やる事がある」というのは生き甲斐になる。また、その人のやり残したことを引き出す支援は大切なこと。前向きの姿勢になれるような支援のしかた・声かけ、寄り添いが大切。ご利用者は「終の棲家」として利用されており、「(今まで言い出せずにいた)過去にしまい込んでいたもの」を引き出す工夫・しくみが大切だと考える。そして、その支援の積み重ねが虐待を生まない土壌となる。地域の見守りは大切。施設といえども地域の生活の場の一つ。地域から見ると施設も地域の一部と見ていただける様になると関係がよくなる。特養職員は介護のプロ。その技術を地域にフィードバックしていくことは資源活用となる。男性介護者や家庭内介護者にフィードバックすることは地域貢献につながる。地域と施設の良好な関係の構築にもなる。施設・職員で必要なサービスに達していないのであれば協力者(共助)を募る、あるいは地域の中で「これならお手伝いできる」「こうやれば」などのアイデアをいただくことなどで、地域を巻き込むことが大切ではなかろうか。地域の方が「様子を見に行ってみよう」と思わせる仕掛けは大事な事で、地域の方々がご利用者から声を聞きだすこと、コミュニケーションをとることができれば、職員とは違う目で見て「また来ます」となる。地域とつなげていくことが福祉の役割。地域の方を巻き込み、「地域の方とともに」の体制ができれば、地域の方に見守られながら仕事の充実感・達成感も前進していくのではないか。これもまた事業所の閉鎖的環境をなくし、虐待につながらない事業展開ができていく。福祉の現場は、ご利用者の生活をみんなで支えるもの、結集軸をつくり共有・共感していくもの。生活が限られたところにあるということは、同じものを見て共に感動していくもの。事業所の一体感やチームワークが、みんなが仕事の達成感・充実感となっていく。がんばってほしい。」と締めくくられました。