研修名:虐待防止研修
日時:令和元年7月5日 午後1時30分から
場所:兵庫県農業共済会館4階
講師:兵庫県対人援助研究所 主宰 稲松 真人 氏

内容:
 皆さんが対人援助者ですから、ご利用者さんがいて援助者がいるのです。
 我々は、利用者さんの生活を支援している。その生活といったら、絶対利用者さんのもんですよね。「援助という人間関係の主体」は、ご利用者さんです。これが、対人援助のベースのベースです。
 皆さんの、社会福祉援助、対人援助の目標、仕事の目標は、何でしょうか。その目標に向かって何をしているのでしょうか?
 生活援助の目的は、自立です。自立っていうのがきもで、社会福祉の援助をしている時に自分のことを自分で出来るようになることだけが自立でしょうか。我々が本来言っている自立とは、自分で出来るようになるって事だけではなくて、自己決定による自立。自分で決めるという事なんです。
 利用者さんの自己決定。この自己決定が、その人らしい生活に繫がっていく。
 自己決定を積み重ねてきた時に、その人らしさが出てくるんです。
 自己決定による自立を目指したら、それを目指して何をするんでしょう。福祉はその人らしい生き方のために我々は何をしてるんでしょう。その人らしい生活、これが目標やから、今はそういう環境になってないからそこを目指していく。向上させるって時に、QOL・クオリティ オブ ライフって、生活の質ですよ。
 利用者の生活の質を上げるというのは、その場面、場面で選択肢の幅が有る方がいいですよね、皆さんが関わってる利用者さんに皆さんはご利用者さんにこういったQOLを上げてますかね。
 自立支援である裏返しは、その人の権利擁護でしょ。その人の権利を守っているわけですから。実は社会福祉の支援というのは、権利擁護の実践なんですよ。そこはあまり言われないですよね。
 利用者さんの困りごとが、どういう理屈で出来上がっているのかが、分らなかったら、何処にどう手を入れて行っていいのか分からないじゃないですか。それで、その人の生活を見てみましょうと、マズローさんという心理学者が、人間の欲求は、5段階の階層に分かれている。
 マズロー的に3番目あたりの社会的欲求、そういった欲求がある人にどんなサポートをしていったらいいだろうって考えるのがソーシャルサポート理論の考え方で、大元は人は一人きりで孤立しては生きていけない存在やって言うところに立った時に。一人の方が生きて行く時に、周りの社会から色んなサポートを受けてますよね、それをウィルズという学者さんが、いろんなサポートがあるけど、あえて研究のため6つの種類に分類できる言うたんが、6つのソーシャルサポート理論です。
 一番初めに自己評価サポートと書いてあるのは、利用者さん自身が、利用者さんの自己評価するためのサポートです。
 自己評価サポートの次に、地位のサポート。自分何か役割があって認められたほうが生きがいが有るわけですよ。
 情報のサポートこれ皆さんやっているん違いますか、情報を提供していく。その人のニーズを解決していくのに、より重要な情報をお伝えする。
 道具的サポートっていうのは、ヘルパーさんとかがやっている実際に我々の体を道具として使ってやるサポートです。
 社会的コンパニオンと言うのは、皆さん方のかかわりの中で利用者さんとで、そういう関係性を担う時に、相手から信頼関係と慎重さがいります。
 最後が、モチベーションのサポートです。利用者さんが頑張ってるって時に、もうちょっと頑張り続けよか、もうちょっと踏ん張ってみよかって思うためのサポートです。
 こう言ったサポートを行っている皆さん方はプロフェッショナルなんです。視点を変えると、利用者さんの生活の権利を守っている立ち位置です。利用者さんが利用者さんらしく生きて行くのを支えているサポーターさんなんです。
 プロに何を求めます。専門職に何を求めます。そう専門性。専門性とは?技術ですよね。技術があると言うことは、知識がいりますよね。専門的な知識が有って、実践するための専門的な技術がある。知識だけでも駄目ですよね。
 では一番元は、理念ですよ。
 対人援助と言う人が人を支援する仕事の上での、1番基本的な視点・考え方の所です。中でも押さえておいてほしいのは、利用者が主体やと言うことを肝に銘じておいてほしい。利用者さんの生活を支援しているから、利用者さんが主体者なんや。
 我々は、どちらかと言えば従の方や。サポーターですから。だから、課題解決するのは、利用者なんです。我々は、利用者が課題を解決するのを支える人。対人援助の仕事を選んだ以上、絶対守ってほしい基本姿勢が3つあります。
 1つ目は、その人の価値観は、尊重する。尊重するのと認めるのは別です。こちらの価値観を少なくとも一方的に押し付けてはいけない。
 で、2番目は、援助職者としての倫理観を守る。
 最後が、情緒的客観性を保つって、心理的な距離感を適正に保つ。
 我々の仕事の価値って、利用者さんの自立なんですよ。
 利用者さんに信頼してもらえる、利用者さんを主体とした援助関係を形成していくために、どんな事注意したらいいですか、どんな態度が大事ですかがバイステックの7つの原則ですよ。
 利用者さんと接する時に、利用者さんを個人、一人ひとり違う個別に人間として向き合ってくださいよって個別化の原則が第1原則ですよね。
 明るくしてる人でも、悲しかったり辛かったり悔しかったりという気持ちを持っていますから、それが出しやすいように接してください。そういう感情が相手から出た時、丁寧に扱ってあげてよっていう第2原則が意図的感情表出ですよ。
 第3原則は、相手が感情表現した時に、それを丁寧に扱う。ただし自分の情緒面は、吟味しといてね、統制された情緒的感情、相手の感情に巻き込まれたり自分の価値観を押し付けたり、自分感情の起伏をそのまま相手との関係に出たらまずいじゃないですか。そしたら、自分の情緒面は、コントロールしといてね。
 第4原則受容って受け止める。受け止めるだけじゃなくて、第5原則の非審判的態度って一方的にこちらの判断で、良いとか悪いとか言わんといたって。
 第6原則の自己決定言うたら原則中の原則やから、相手が選ぶと言うことを尊重してね。と言うのが自己決定の原則。で、最後の原則もちろん秘密は守るというのは絶対です。バイステックの7つの原則みたいな事は体に浸み込んでないとだめよ。
 我々がやってる仕事の根本的で基本的な所でそれを思って仕事をしていたら虐待はそんなに簡単に起こらへん筈なんですよ。
 何で虐待が起こるのか言うたら1番の理由は利用者さんを言う事聞かそうとするからです。倫理とか言う視点ではなくて、虐待が起こっている言うたら何が起きていますか。主体が援助者に来てるんですよ。援助者が主体やから言う事聞け、言う事聞けへんてなった時にコラってやちゃたら虐待になちゃうんでしょ。
 自己決定を尊重せんとあかんのですよ。
 法律で高齢者虐待ってなあに。この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、身体的虐待と心理的虐待とネグレクトという介護放棄と性的虐待いうやつと経済的虐待、この5つを言うんですわ。
 ドラッグロックは、薬です。ドラッグですから、向精神薬とか導眠剤のきついので眠らせるとか動きを封じ込める。薬を過剰に投与して動けなくする。これドラッグロックです。はなから寝かそうと思って薬飲ませるのは、完全に身体拘束です。
 最後スピーチロックです。言葉による身体抑制ですね。行動抑制。
 虐待を受けるのが一番多いいのが認知症の人。我々が普通に言葉で言うたら分かるやんね。が分かりにくい人に対して何で言うても分からへんのんていうて、ガーンとなるケースが結構多いので。そこの部分で言うと認知症ケアは理由を探るのが大事、そしたらそれで考えたら立ち上がるって言うのは、なんか理由が有って立ち上がるで、どうされたんですかとか何処に行かれるんですかって聞いたらそれは身体抑制ではない。えー、またーって時にすぐに出てこないですよね、ちょっとお話し聞きますわ。余裕が有れば、時間が有れば、隣に座って一緒に話しませんか?座って喋ってたら多分一緒に座ってくれる。ただその余裕がない現場でもあるので良く知ってます。その現場でもいつも余裕が無いかいうたら、ちょっと位やったら大丈夫な時もあります、その時にも余裕をなくさないように意識を持つためにはスピーチロックって結構起こるそうです。悪気が無くても立たないでとか座っといては実は身体拘束なんや。
 複雑なんは、「またー、また失禁したん。今日、朝からおしっこよう出るよね。」で尿編を起こす場合が有るんです、心因性のスピーチロックです。相手の意思に沿わない事をしてる訳やから、少なくても心理的虐待になる可能性は凄く大きい。
 対人援助の基本、虐待に関する知識も含めバタバタしてるから基本的なこと忘れる。仕事の目標は、なんやったっけ、とふっと忘れちゃうと言うことが起こってしまう。忘れると言うことも問題なんやけど、はなから知らないのも問題です。
 自立ってこういう事やんね。QOLってこういう事やねと言うことを知らずにいるヤッパリ怖いです。知らないのは罪や。無知は罪と言う位ですから。だからそういった勉強をするのが大事です。
 考えると言うことを止めると、虐待に繋がります。
 何故この人は今日ご飯いらないって言うんやろう。何故今日は、お風呂嫌なんやろう。何故この利用者さんとはうまいこと行けへんのやろう。何でって言うのを、考えるのをやめた時に、虐待の可能性は高まると僕は思っています。だから考えることをしてほしい。
 皆さん方が勤めている組織は、ちょっと疲れてきたときに最近しんどいとか、あの利用者さんの対応で困っている、と言うことを普通に相談できる雰囲気が組織内にありますか。それが有るとだいぶ違います。
 そういった雰囲気を持った組織を作ることやと思います。別に上が言わなくても出来る虐待防止には、何をするかと言ったらキッチリ挨拶するという事と言葉がけを惜しまないことと出来る限り笑顔で仕事をする。
 挨拶するって言うのは、あなたがそこにいるって分かっていますよ、っていう事でしょ。こんにちはって言うのは、知っている俺がおるのを分かっているじゃないですか。あなたがそこにいて私がここにいる。お互いに認識しあうから人間関係が始まるわけですよ。
 対人関係の仕事をしている我々は、くどくても目を合わせ、こんにちはって言うようにしようっていうのが大事。それ以外の言葉がけもする。こんにちは、の後に風邪どうですか。というたら、こいつ俺の事ちょっと大事に思うってくれているのかな、って伝わるじゃないですか。利用者に嫌いな魚やけど1口ぐらい食べてくださいよ。みたいな言葉がけすると、なんかちゃんと覚えてくれてはるわ。関係性が深まるわけでしょ。
 挨拶をして関係性を作ったうえで関係性を広めたり深めたりするのは、特別な言葉がけじゃなくて日常茶飯の言葉がけ。お下げしていいですか?とか、お待たせしましたって言う言葉を笑顔でする。それを心掛けるだけで組織の雰囲気が確実に変わります。
 それは実践するのに、ものすごい技術はいらないです。意識だけです。実は、そういう事をしていくというのが、本来の現場から上げていく虐待防止やと思っています。と言うことで終わります。