大規模災害時における介護事業所のリスクマネジメント  平成29年9月15日、株式会社福祉リスクマネジメント研究所所長・びわこ学院大学教授 烏野猛 氏をお迎えして、「大規模災害時における介護事業所のリスクマネジメント~判例からみたいまの危機管理水準と対応策~」と題して、防災・非常災害対策研修を開催しました。

〔研修のポイント〕
大規模災害は平日よりも土日・祝日、それも深夜から朝方にかけてやってくる。
発災直後の行動は、発災直後3時間をイメージした初動対応が必要。「今あるものすべてで守り抜く」必要がある。2階建て以上の施設系事業所の基本は籠城。なので「今事業所に何があるのか」を正確に理解する必要がある。倉庫には備蓄がたくさんあるとはいうものの誰にどれだけ必要かわからない。備蓄を「1人の利用者さんの1週間分の食料」とパッケージ化すると何箱と考えやすい。また、福祉避難所に指定されていたら地域の人には食料・薬など持ってきてもらうよう手はずを整える。なので「今、誰がいるのか」を把握する必要がある。今日の宿直者はだれ?
(200人を6人でどうやって守るのか?)。行政から物資が来ると思うのは甘い考え。「今あるもので、3日間をどう乗り切るのか」を考える。

 インフラはダメージから想定する(発災から3時間で確認すること)。
電気は、非常用電源等の備蓄確認、電気使用の医療機器類の確認、経管用医療キット類の残数確認(薬局を通さないと手に入らないものは1週間分必要)、厨房の冷凍庫・冷蔵庫の確認。水道は、飲料水、生活用水の備蓄確認。ガスは、カセットコンロ、ボンベ、炊き出し用道具の確認、食事提供を考え、どの順序で備蓄を使うかの確認(食事提供という視点で管理栄養士等)。通信は、インターネット、電話(固定・携帯共)、テレビ、ラジオの使用確認、携帯電話のテレビ、車搭載ナビのテレビ・ラジオの確認。交通は、ガソリン・燃料の残量確認、道路・橋等のダメージによる職員の通勤困難を考え事業所までの経路確認。福祉避難所は、20世帯(100人位)程度の要援護者がやって来た場合のスペース、男女比、備蓄品の確認など。

 災害対応は、予測できる災害(水害、雪害、(津波))と予測できない災害(地震、噴火、(原発事故))とに分けること。平成28年9月9日付で厚生労働省から「介護保険施設等、障害者支援施設等における利用者の安全確保及び非常災害時の体制整備の強化・徹底について」が発せられた。災害に関する情報の入手方法(「避難準備情報」等の情報の入手方法の確認等)について確認しておくこと。子供・障害者・老人は自分で避難の判断が出来ない。周りのプロが直近の情報を収集する法的義務がある。

 「避難したのか、留まったのか、その結果、助かったのか亡くなったのか」ではなく、「避難したのか、留まったのか」の行動の根拠となる予見義務(予見可能性)のあり方が問題。直近の情報をどうやってとるかが大切。情報の収集を「誰がどうやってどの情報」により判断としたのか。家族に引き渡す場合、いまのマニュアルではどうなっているのか、「家族への説明は?、引き渡す場合の条件は?」。 避難する場合、「引渡しをしないと判断した理由(根拠)?」。何の情報をもって、避難すると判断したのか?、どこへ?、誰が判断する?、経路は?、実行性と確実性は?。

 在宅(居宅含む)介護事業所におけるリスクと方策として、「できること」、「できないこと」を踏まえ、「やるべきこと」を考える。「利用者をどうするのか?、避難所に連れて行くのか?、避難所に置いていっていいのか?、次の利用者は?、スタッフはどうなるのか?」葛藤と苦痛、利用者さんと家族との天秤関係の中で苦しい。だから職員の家族も施設に避難する。

 大豪雨で川が氾濫し、土砂の混じった水がそこまで来ている場合、どの利用者から助けるのか?。高齢者を含めた避難弱者の避難といった場合、「自宅から避難所まで」と「避難した避難所からの生活」との視点から「避難」を考える。その際の「できる仕事」、「できない仕事」、そして「やるべき仕事」を考える。

 利用者(認知症高齢者を含めた災害弱者)は、「避難弱者」として位置づける。最も接点があるのはサービス提供事業者。特に訪問系事業所(訪問介護・看護事業所等)は家族さんへ説明しないといけない。有事の際に家族がどこまで事業所に協力してくれるか問う事はできる。伝えたことは記録に残すこと。避難弱者である者の避難とは、避難してからの避難場所における避難生活の安定があってはじめて「避難弱者の避難」となる。

 在宅介護事業者にとってのBCPは、「地域」という考え方が必要。訪問中に大規模災害が襲ってきた時の災害時・緊急マニュアルはどうなっているのか?、いま申し合わせていることや災害時・緊急マニュアルではどうなっているか?、利用者を避難所まで避難させた場合どんなことが注意点として考えられるのか?、避難所での避難生活が数日~数週間続くとしてどんなことが注意点として考えられるのか?。訪問系は完全な独居は死守する。近くの大きな特養と病院へ避難してもらう。また地域の人にお願いするしかない。

 インフラ(電気・水道・ガス・通信・交通)はダメージごとに課題を整理すること。電気では、通電火災。通電後10分間の出火に要注意(阪神淡路大震災はこれで被害が出た。97%がその日のうちに亡くなった)⇒安心センサーでブレイカーごと落とすこと。情報はカーナビのテレビを活用(車は発電するので活用しやすい)⇒車にガソリン入れておくこと(特に連休の前・台風の前)。飲料水・生活水では、下水が使えない場合に備えたトイレ対策を講じる(利用者向け/職員向け)、女性目線での対応も考えておく。貯水タンクから水を取る方法を知ること。交通機関は、車での避難となるため、大渋滞が引き起こされる。川があるということは、橋があるということ。橋があるということはグリッドロック(超渋滞状況)を引き起こしやすい。

 自施設におけるBCPは、大規模災害が起こった時にインフラが落ちるので、介護のレベルが下がる。このダメージを半分ぐらいにし、復旧を早める。そのため、「1緊急地震速報、2情報の発信、3情報収集、4安否確認、5屋内退避(原発事故の場合)、6食事の提供、7夜間対応、8帰宅困難者への対応、9疲労している職員に対する対応、10下の階にいる利用者を上に移動する方法、11緊急避難、12全面緊急避難。」を計画しておく。

 発災から一週間で起こったリスクを時系列に並べ、そのシュミュレーションをしておけばダメージを半減できる。特に夜勤帯での対応が要。何がネックになるか考えること、と緊迫感のある講義でした。